シリコーン雑学第5回(航空・宇宙編)
- 化学・材料
- マテリアル研究開発室
シリコーンの役割や重要性についてお届けする「シリコーン雑学」も第5回となりました。
今回は、音速を超える際の摩擦熱や超高度での極寒にさらされる航空機、さらには真空環境の宇宙開発に至るまで、極限状態に挑む空の現場でシリコーンがどのように活用されているかを詳しく解説します。
極限環境に耐える卓越した特性と、独自の要求性能
航空機や宇宙船が直面する環境は、-70℃以下の極低温から、音速飛行時の摩擦による高温、さらには地上とは比較にならないほど強力な紫外線やオゾンまで、想像を絶する厳しさです。
一般的な素材では対応が困難なこうした極限状態において、独自の化学構造を持つシリコーンは、高い信頼性と多機能性で課題をクリアします。
耐熱性・耐寒性
超高度の-70℃以下のような極低温から音速飛行時の摩擦熱まで、幅広い温度域で柔軟性と性能を維持- 耐候性(紫外線・オゾン)
高層大気や宇宙空間の過酷な光線・ガスによる劣化を最小限に抑える - 電気絶縁性
優れた絶縁特性により、機体の心臓部である精密な電子機器を確実に保護
特に宇宙空間のような真空条件下では、材料から放出される微量な揮発成分(アウトガス)が、光学レンズの曇りや電子回路のショートを引き起こすリスクがあります。そのため、航空・宇宙用途のシリコーンには、極めて厳しい純度が求められます。
評価にはASTM E595(NASA低アウトガス仕様)という 125℃の真空下で24時間実施される厳しい試験があります。
この基準をクリアした高純度なシリコーンが、気密性を保持する航空機のドアや窓のシール材、電子基板のポッティング材(封止材)などに採用されています。
航空・宇宙を支える「ミラブル型シリコーンゴム」の応用
高粘度で強靭な物理的強度を持つ「ミラブル型シリコーンゴム」は、機体の安全を支える極めて重要なパーツに多用されています。一般的なゴム材料が劣化しやすい高度な環境下でも、優れた弾力性と気密性を長期間維持できる特性から、配合や成形加工の自由度が高いこの素材は、航空・宇宙設計の現場で確固たる信頼を築いています。

- 用途例
機体シール材: 乗降ハッチや窓の閉鎖シール。
防振・緩衝: 計器類の正確な作動を守る緩衝マウント。
油圧・配線: 液圧器のOリングや、機内配線用の耐熱電線・コネクター。
付加型硬化の例

人類最初の一歩を刻んだ、シリコーンの靴底
シリコーンは、人類の歴史が大きく動く先駆的な瞬間にも、その足跡を残しています。象徴的なのは、1969年にアポロ11号が月面に到達した際のエピソードです。アームストロング船長が刻んだ人類初の「月面への第一歩」。実はその足元を支えていたオーバーブーツの靴底(ソール)こそが、シリコーン製であったという記録が残されています。
マイナス150℃からプラス120℃まで激変する過酷な月面環境においても、硬化や劣化を起こさず優れた柔軟性を維持できる素材として、シリコーンに白羽の矢が立てられたのです。言い換えれば、地球上のあらゆる物質の中で、アームストロング船長本人よりもいち早く月面に触れたのは、まさにこのシリコーンという素材そのものでした。歴史に刻まれたあの鮮明な縞模様の足跡は、シリコーンの類まれな信頼性の証でもあるのです。
衝撃を吸収する「ジメチルシリコーンオイル」
液状のシリコーンである「シリコーンオイル」も、空の安全を支える重要な役割を担っています。最大の特長は、一般的な有機系オイルと比較して極めて高い「高圧縮性」を備えている点にあります。また、温度による粘度変化が非常に小さいため、上空の極低温から着陸時の過酷な負荷まで、環境に左右されず常に一定の性能を維持できる信頼性が高く評価されています。

- 航空機用ダンパーへの応用
着陸時の巨大な衝撃を受ける機体着陸装置(ランディングギア)の緩衝油。超高圧下でも液状を保持し、安定した減衰力を発揮することにより、確実に衝撃を吸収する。
まとめ
超高度での激しい温度変化や真空状態、さらには強烈な紫外線や放射線が降り注ぐ過酷な宇宙空間。こうした特殊な環境下で機体や精密機器の性能を維持するためには、耐熱・耐寒性、低アウトガス性、電気絶縁性といった多機能を高次元で併せ持つシリコーンの存在が不可欠です。
人類初の月面着陸という歴史的な瞬間から、現代の航空安全を支える最新のコンポーネントに至るまで、シリコーンはその優れた信頼性によって技術革新の最前線を支え続けてきました。
当社では、航空・宇宙グレードに求められる極めて高い要求スペックに対し、長年培ってきた専門知識と幅広い製品ラインアップを活用し、最適な材料選定からソリューション提案までトータルにサポートいたします。
進化し続けるシリコーンの可能性を、ぜひ皆様の次世代プロジェクトの課題解決にお役立てください。
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